建勲(たけいさお)神社は、京都市北区の船岡山山頂にある神社で、一般的には建勲(けんくん)神社、地元では「けんくんさん」と呼ばれて親しまれています。
織田信長を御祭神とし、緑に囲まれた境内は静かさの中にもピンと張りつめた空気を感じるパワースポット。
今回は、そんな建勲神社と船岡山を紹介します。
建勲神社の御祭神と由緒
建勲神社にお祀りされているのは、織田信長と子の信忠です。
御祭神
配祇神 織田信忠
信長は、戦国の世をまとめ上げ、天下統一の礎を作りながらも、家臣・明智光秀の謀反により「本能寺の変」で自刃しました。
その子・信忠は本能寺に駆けつけようとしながら間に合わず、二条新御所(現在の国際漫画ミュージアム付近)で明智勢との激戦の末自害しています。
由緒
本能寺の変後、豊臣秀吉が船岡山に信長の廟所・天正寺を建てようとしますが、何らかの理由でとん挫しました。
その後信長の廟所は建てられることなく江戸時代が過ぎ、そして明治維新後…。
明治2年(1869)11月8日に、戦国時代の争乱において天下統一・朝議復興などを進めた織田信長をたたえ、明治天皇より神社創建の宣下がされました。
翌明治3年には、「建勲(たけいさお)」の神号を賜り、東京(信長子孫:天道藩知事・織田信敏邸内)と織田家旧領地である山形県天童市に建勲社(たけいさおしゃ)を造営。
明治8年(1875)には、別格官幣社(べっかくかんぺいしゃ:国家に功績のあった人臣をお祀りする神社)に列せられます。
その後、建勲社を京都船岡山のへ移すことになり、明治13年(1880)に遷座、翌明治14年には信忠が合祀されました。
当初は船岡山のふもと、現在「太平和敬神」の石碑が建っている付近にあった本殿ですが、明治43年(1910)には社殿が船岡山山頂の現在地に移されました。
建勲神社の御神徳
建勲神社は御祭神である信長の業績から、国家安泰・大願成就・難局突破・万民安堵などの御神徳が広く崇敬されています。
境内の見どころ
建勲神社が鎮座する船岡山は、標高112m・周囲1300mの緑豊かな小山で、いにしえより霊山として知られていました。
まずは船岡山について紹介しておきましょう。
玄武が棲む霊山・船岡山
古くは、聖徳太子の文献にも登場し、将来皇城の地になると予言したと伝わる船岡山は、平安京遷都の際には四神相応の玄武が棲んでいる地として、北方の守護神とされました。
都を造営するにあたり、船岡山が基準点となりその真南に大極殿、平安京を南北に貫く朱雀大路が設計されています。
平安時代には景勝の地としても知られ、清少納言の「枕草子」では、思い浮かぶ丘の名として一番に「丘は船岡…」と書かれています。
一方平安時代後期になると、化野・鳥辺野とともに葬送地や処刑地としても使用されています。
応仁の乱では、船岡山に陣が置かれ、激戦地になったこともあります。
そのため、魔界スポットとしても知られている船岡山ですが、現在は建勲神社から北に、船岡山公園があり、季節の花も楽しめる京都市民憩いの場となっています。

佐々木蔵之介さんの出演されていた『みやこが京都にやってきた』でも映っていました!
荘厳な白木の鳥居
建勲神社へお参りするには、北参道・南参道・東参道の入り口があります。
比較的なだらかな参道は北参道です。
とはいえ、本殿は船岡山山頂ですので、まあまあの石段を上る覚悟はしておいてくださいね。
表参道とされているのは、東の参道でそこには立派な白木の鳥居があります。
明神鳥居は朱色に塗られた華やかなイメージがありますが、建勲神社の場合は白木で、それがかえって力強さや神々しさを感じさせます。
義照稲荷神社
鳥居をくぐった正面には、義照(よしてる)稲荷神社に続く朱色の鳥居が続いています。
義照稲荷神社の御祭神は以下の三柱です。
- 宇迦御霊大神(うかのみたまのおおかみ):五穀豊穣の女神
- 国床立大神(くにとこたちのおおかみ):天地開闢の際に初めに現れた神々の一柱・国土の永遠の安定を象徴する神
- 猿田彦大神(さるたひこのおおかみ):物事を良い方向へ導く神
この地を支配していた秦氏の守護神であり、西陣織の祖神でもあります。
義照稲荷神社境内にある命婦元宮(みょうぶもとみや)は、伏見稲荷大社命婦社の祖神である「船岡山の霊狐」をお祀りしているお社です。
伏見稲荷山とここ船岡山とは遥か昔より神霊の交渉が多かったとされ、伏見のお稲荷さんとは切っても切れない関係なのです。
義照稲荷神社から更に100段ほどの石段を上りましょう。
京都市街を一望できるおすすめスポット
石段を登りきると左手に建勲神社、右には京都市街を見渡せる絶景スポット!
ここからは京都市の東の町並みと比叡山を中心とした東の山々を見ることができます。
スッキリと晴れている日なら、大文字山の「大」の字もしっかり確認できます。
気持ちの良い景色を見ながら息をととのえたら、建勲神社へお参りしましょう。
「敦盛」歌碑
表参道を進むとすぐ左にあるのが桶狭間の戦い出陣前に、織田信長が舞ったと言われる、
「人間五十年 下天の内をくらぶれば…」の有名な歌の碑です。
社務所
歌碑を過ぎて、緩やかな石段を数段上ると、右に社務所があります。

歌碑の前から境内に向かう参道
手水舎
社務所の斜め向かいにあります。
私が訪れた6月中旬には、苔玉風の風鈴やガラス風鈴が吊り下げられていて涼やかな音色を響かせていました。
手水鉢や狛犬の台座に刻まれているのは、織田家の家紋「織田木瓜(おだもっこう)。
船岡妙見社
手水舎の南西にあるお社で、船岡山に棲むとされる玄武大神をお祀りしています。
拝殿
入母屋造りで檜皮葺の拝殿。
内部には織田信長三十六功臣のうちの毎年入れ替わりで十二功臣の額が飾られています。
神門(祝詞舎)
拝殿の奥にある神門は、拝殿と対照的に切妻造りの穏やかな風情がある建物です。
織田信長と信忠がお祀りされている本殿は、この神門の奥にあります。
普段は立ち入れませんので、神門から覗くだけ。
建勲神社の御朱印
建勲神社の御朱印には通常の御朱印以外に織田信長にちなんだ「天下布武」御朱印・神社ゆかりの刀剣御朱印・三十六功臣の特別御朱印・京都刀剣御朱印巡りの御朱印(不定期)などがあります。
本社の御朱印
基本の御朱印は「建勲神社」と「参拝日」の墨書きに「建勲神社」と「天下布武(てんかふぶ)」の朱印が押されたシンプルなものです。
天下布武とは織田信長が掲げていたスローガンのようなもので、「武力をもって天下を統一する」というような意味だと考えられてきました。
しかし、近年では天下とは京都を中心とした五畿内(山城・河内・摂津・和泉・大和)であり、そのエリアの秩序をととのえ、再び幕府(武)が権力を握ることを目指していたのではないかと考えられています。
天下布武龍章御朱印
「天下布武」の文字を龍が囲んだような朱印(龍章)が印象的な御朱印は、信長にちなんだものとしてぜひいただいておきたい御朱印です。
「天下布武」と「織田木瓜」の金印に、織田信長の花押、その上御朱印帳の間に挟んでいただいた紙には織田信長の朱印が押されるという信長づくしの御朱印です。

はさみ紙もいい感じ!
信長にちなんだ御朱印には「敦盛」の一節と舞いをする信長のシルエットがデザインされたものもあります。
三十六功臣特別御朱印
令和7年(2025)時点では、信長の家臣で特に功績があった36人(拝殿に額が掲げられている家臣たち)の特別御朱印も授与されていました。
命婦元宮の御朱印
伏見稲荷大社の親神がお祀りされている「命婦元宮」の御朱印には、「義照稲荷神社」と義照稲荷神社境内に鎮座している女人守護「阿古町(あこまち)稲荷」の墨書きも入っています。
阿古町とは稲荷神の眷属のうち女狐に授けられた名前です。
ちなみに男狐は小薄(おすすき)という名を授かっています。
建勲神社ゆかりの刀剣御朱印
建勲神社の刀剣御朱印には、「薬研藤四郎」「宗三左文字」「実休光忠」の3種類(令和7年6月参拝時)あります。
切れ味抜群の薬研藤四郎
「薬研藤四郎」は、鎌倉時代の刀工・粟田口藤四郎吉光(あわたぐちとうしろうよしみつ)が手掛けた短刀です。
室町時代のこと、武将の畠山政長(はたけやままさなが)が戦に負け、自刃しようとしましたが、短刀が全く腹に刺さりません。
腹を立てた政長がその刀を放り投げると、近くにあった薬研(薬の調合に使用する金属製の道具)に突き刺さったそうです。
この逸話から「切れ味は抜群だが、主の腹は斬らない」名刀として「薬研藤四郎」や「薬研通吉光(やげんとおしよしみつ)」と呼ばれるようになりました。
薬研藤四郎は、足利家から松永久秀(戦国武将)そして織田信長と渡りますが、その後の消息は不明ですが、薬研藤四郎の絵図から作刀されて建勲神社に奉納されました。
薬研藤四郎再現刀の公開について
日時:10月19日(木) 14時~16時半
10月20日(金)~29日(日) 9時半~16時半
場所:建勲神社貴賓館公開期間中は特別のご朱印を授与します。
10月20日(金)と21日(土)は11時及び14時半より藤安将平刀匠による講話を予定しています。 pic.twitter.com/xK7mD3vtNk— 建勲神社 (@kenkun_jinja) September 27, 2023
「薬研藤四郎」の御朱印は見開きサイズで中央に刀身と織田木瓜がデザインされています。
背景は黒で、左側には「薬研藤四郎」の由来が記されています。
天下取りの刀:宗三左文字
「宗三左文字」は、南北朝時代の刀工・左文字(さもんじ)が打った刀剣です。
初め戦国武将・三好政長が所持しており、政長の法名「宗三(そうざん)」にちなんで「宗三左文字」と呼ばれるようになりました。
宗三左文字は、政長から武田信玄に、信玄から今川義元に贈られます。
桶狭間の合戦後には信長の手に渡り、本能寺の変で焼けてしまいました。
しかし、再刃(さいば:焼き直し)をされて秀吉の元へ渡ったあと、徳川家康の手に渡り、徳川家愛蔵の刀となりました。
その後明暦の大火(1657年)の際に被災し、また再刃されたそうです。
建勲神社へ移されたのは明治維新後のことで、徳川家から寄贈され、現在は京都国立博物館に寄託されています。
なお、宗三左文字は重要文化財に指定されていますが、文化財としての名称は「義元左文字」となっています。
「宗三左文字」の御朱印も見開きサイズで背景は黒、中央には刀身と織田家の別の家紋「揚羽蝶」がデザインされ、左側に刀の由来が記されています。
信長の愛刀実休光定
「実休光忠(じっきゅうみつさだ)」は、鎌倉時代の刀工・長船光忠(おさふねみつただ)が作った刀剣です。
華やかな乱れ刃が特徴的な光忠を信長は特に好んでいたそうで、特に三好実休が帯びていた「実休光忠」に執着していました。
「実休光忠」は本能寺の変で焼身となり、秀吉が焼き直しをさせました。
しかし大坂夏の陣で大坂城が落城したのちは所在が不明となっています。
「実休光忠」の御朱印は、黒の背景に紫の織田木瓜の一部分がデザインされた通常サイズです。
建勲神社でいただいた御朱印はこちら!! 実休光忠、宗三左文字、薬研藤四郎、そして羽柴秀吉の4種
社務所には沢山のグッズが並べられていて、すごく可愛い空間になってました。 pic.twitter.com/CUO0DqDYYe
— しぃな🌸✨ (@shiina_kaduki) January 13, 2025
京都刀剣御朱印巡りの御朱印
「京都刀剣御朱印巡り」は、刀剣にゆかりのある神社をめぐって御朱印を集める不定期のイベントです。
参加しているのは、粟田神社・豊国神社・藤森神社と建勲神社の4社。
建勲神社以外は電車の最寄り駅から徒歩数分の距離ですので、頑張れば1日で回ることができますが、時間のある方はそれぞれの神社をじっくりとお参りすることをおすすめします。
「京都刀剣御朱印巡り」は、平成27年(2015)に始まったイベントで、令和7年(2025)で10周年を迎えました。
同年に複数回開催されたこともあるため、今回は第14弾となり、満願となった神社で特製の扇子もいただけます。
毎回御朱印のデザインが変わるので、そのたびに参加する方も多く、今では特に御朱印好き・刀剣好きにとっては注目のイベントとなりました。
私自身は令和3年に1度参加し、令和7年で2回目。
参加していない回も御朱印のデザインは確認済みですが、回を追うごとに凝ったデザイン・美しい御朱印になっているような気がします。
なので、多分これからも参加し続けることになりそう…。
第10弾 令和3年版の御朱印
令和3年にいただいた御朱印は第10弾のもので、建勲神社の公式HPで確認したところ、見開きタイプのよく似たデザインが、令和2年版・3年版・4年版の3種類となっていました。
私がいただいた令和3年版は、紫のグラデーションを背景として、建勲神社の桜と織田家家紋の揚羽蝶、薬研がデザインされた美しい御朱印でした。
第14弾(令和7年)の御朱印
令和7年は10周年を記念したとても素敵な御朱印。
やはり紫のグラデーションに桜と薬研、銀押の揚羽蝶と「京都刀剣御朱印巡り十周年」がキラキラと輝いています。
とても洗練された素敵な御朱印でした。

これからも期待に胸を膨らませて、待つことにしましょう
おすすめの行事・祭事
建勲神社で最もおすすめの行事は、船岡大祭です。
船岡大祭
船岡大祭が行われる10月19日は、「建勲」の神号が宣下された日で、地元の方はもちろん、信長の崇敬者など多くの参拝者でにぎわいます。
祭事は年によって多少の変更がありますが、毎年拝殿で行われるのが、信長が好んで舞った「敦盛」などの奉納です
その他、火縄銃演武が奉納されることもあるそうです。
戦国時代をほうふつとさせるような迫力ある光景が楽しめますよ。
フォトグラファーの三宅徹氏より船岡大祭の写真を御奉納いただきました。火花が出た瞬間が見事にとらえられています。 pic.twitter.com/aOpwfwLjIv
— 建勲神社 (@kenkun_jinja) October 27, 2017
春の桜は見ごたえあり
建勲神社の春は、東参道の大鳥居周辺のソメイヨシノや境内の紅しだれ桜などが咲いて、とても美しい景色になります。
木々の緑に映える桜の淡い・濃いピンク色は、心を洗われるような美しさです。
桜の名所としては、それほど知られていませんので、お花見の方は多くありません。
人込みを避けてゆっくりと桜を愛でたい方にはおすすめですよ。
終わりに
建勲神社周辺には、大徳寺や今宮神社など有名な寺社や、船岡温泉にレトロ可愛い喫茶「さらさ西陣」など観光スポットが点在しています。
京都にある、銭湯をリノベしたカフェ「さらさ西陣」
美しいタイルをそのまま残した空間はどこか異国の喫茶店のよう。美しい青いクリームソーダがおすすめです。 pic.twitter.com/9WvoHQKbPE
— 旅の自由帳 (@creamsoda_sea) September 12, 2023
もちろん船岡山の自然を楽しみながら散策するのもおすすめです。
そんな素敵なエリアながら、観光客は比較的少なめなのも魅力。
「けんくんさん」を参拝した後は、ぜひあなただけのお気に入りスポットを見つけてくださいね。
建勲神社 基本情報
- 住所 京都市北区紫野北舟岡町49
- 電話 075-451-0170
- 境内自由/拝観無料
- 社務所受付 9:00~17:00
- 公式ホームページ https://kenkun-jinja.org/
コメント