市村鉄之助 新選組副長土方歳三を敬愛した少年隊士の儚い生涯

新選組

明治2年(1869年)夏。

1人の少年が、多摩にたどり着きました。

それは、新選組副長・土方歳三の遺品を命がけで届けに来た市村鉄之助です。

彼が、土方の姉・のぶのもとへやってきたとき、土方はすでにこの世にはいません。

ですが、彼のおかげで土方歳三の姿は、今に残ることになったのです。

今回は、幼いながら土方歳三のもとで、懸命に戦い、生きた市村鉄之助の生涯を追いたいと思います。

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市村鉄之助の生い立ち

市村鉄之助が生まれたのは、安政元年(1854年)・ペリーが浦賀に来航した翌年です。

美濃大垣藩(現・岐阜県大垣市)藩士・市村半右衛門の三男でした。

鉄之助の一番上の兄は、のちにともに新選組に入隊する辰之助(しんのすけ・たつのすけ)です。

代々大垣藩に仕えてきた市村家でしたが、安政5年(1859年)、父が藩から追放されてしまいました。

その原因は、わかっていません。

とにかく、市村家は大垣藩を追われ、親類を頼って近江国国友村(現・滋賀県長浜市)へ移りました。

それからわずか3年後の文久3年(1863年)には、父・半右衛門が亡くなります。

このころの市村家がどんな生活をしていたのかは、伝わっていませんが、藩を追い出され、家長まで死んでしまった市村家が窮乏したのは、間違いないでしょう。

家計を助けるために、鉄之助たち子どもも、何かしら仕事をしていたのではないでしょうか。

新選組入隊

鉄之助の父が亡くなった文久3年は、新選組が結成された年です。

初めは、浪人の寄せ集めのように見られていた新選組でしたが、規律の厳しさや隊士たちの強さから、次第に注目を浴びていきます。

元治元年(1864年)の池田屋事件により、新選組は一躍有名になります。

鉄之助の耳にも新選組のうわさは入っていたのでしょうか。

「新選組に入れば、武士になれる。そして金がもらえる」

暮らしに窮乏していた浪人には、そんな思いから新選組に入隊した者もいました。

慶応3年(1867年)秋

鉄之助は、兄・辰之助とともに新選組に入隊しました。

まだ14歳の鉄之助のあまりの幼さに、局長・近藤勇も副長・土方歳三も彼を入隊させることをためらいます。

しかし、鉄之助の覚悟を知り、入隊を許しました。

「鉄之助は、総司に似てる」

言い訳のような理由をつけて、土方が鉄之助の入隊を決めたとも言われていますが、これはあまりにも小説チックですね。

土方の小姓となる

鉄之助は、土方歳三付の小姓(身の回りの世話や雑務をする)となり、辰之助は近藤勇付の見習い隊士になりました。

その後、新選組隊士全員が、幕臣となったため、鉄之助兄弟も幕臣になります。

父が大垣藩を追われ、早や10年がたっていました。

鉄之助は、近江にいる家族に幕臣になったことを知らせていたのでしょうか。

しかし、大政奉還、王政復古の大号令と続いた政変により、幕臣という身分はすぐに崩壊してしまいます。

鳥羽伏見の戦い

翌慶応4年(1863年)1月3日 鳥羽伏見の戦いが勃発。

新選組は、伏見奉行所に布陣し、会津藩とともに薩長軍を攻撃します。

鉄之助も兄とともに勇敢に戦いました。

しかし、各地で敗北し、新選組を始め旧幕府軍は、大阪まで敗走しました。

大坂城を枕に戦う覚悟をしていた旧幕臣たちでしたが、大将の徳川慶喜が、江戸へ逃げ帰ってしまいます。

戊辰戦争の初戦・鳥羽伏見の戦いは、旧幕府軍の完全敗北となってしまいました。

兄との別れ

江戸へ移った新選組は、勝海舟の命により、甲陽鎮撫隊と変名して、甲州勝沼の戦いに挑みます。

しかし、ここでも大敗しました。

勢いのなくなった新選組を見限り、脱走する隊士が増え、鉄之助の兄・辰之助も、ともに新選組を脱走しようと提案します。

鉄之助は、兄に従わず、新選組に残りました。

「私は、土方副長についていきます」

新選組に入隊してから半年足らずの鉄之助は、兄よりも土方を選んだのです。

会津から函館へ

同年4月 新選組は、流山(現・千葉県流山市)に布陣しますが、新政府軍に見つかり、近藤勇が捕縛されます。

近藤は4月25日に斬首。

土方は、会津を目指します。

東北各地を転戦しながら、北へ向かう旧幕府軍。

鉄之助は、戦い続ける土方の傍らにいました。

10月、旧幕府軍は蝦夷(北海道)へ渡りました。

函館 五稜郭

土方との別れ

明治2年(1869年)4月

雪の深い冬が終わると、新政府軍の攻撃が始まりました。

土方は、鉄之助を呼んだ。「副長、御用ですか」

まだ幼さの残る鉄之助が、生真面目な表情で土方を見た。

「鉄、おめぇいくつになった」
「…。15歳です」
「ふむ…」
「あの…なにか」
「今から、お前に命を下す」
「はっ」
「これを日野へ。俺の義兄へ届けろ」

鉄之助は、土方が持っている風呂敷包みを不思議そうに見た。

「日野とは、どこの…?」
「江戸だ」

鉄之助の眼がすわった。

「いやです!副長、私は最期まで副長の傍にいると決めたのです。その役は誰かほかの方に命じてください」

土方の表情が変わった。

「副長の命が聞けないというなら、新選組の掟に従い、今ここでお前を斬る」

凄味のある土方の眼が、鉄之助を見据える。

「しかし…」
「鉄!」

鬼の副長が鉄之助を睨みつけた。

「…わかりました。ご命令に従います」

土方の眼が笑った。

「日野の義兄は、必ずお前の面倒を見てくれる。気を付けていくんだ」
「副長…」
「必ず、生きろ」

鉄之助が函館から脱出してすぐ新政府軍が函館を総攻撃しました。

明治2年(1869年)5月11日 土方歳三戦死

間もなく戊辰戦争は終わりました。

明治2年7月ごろ、鉄之助は無事に日野の佐藤彦五郎宅へ到着しました。

土方が渡した荷物の中には、土方が写った写真も入っていました。

命がけで土方の遺品を日野まで届けた鉄之助のおかげで、土方歳三の姿が今に残っているのです。

鉄之助は、佐藤家で土方戦死の知らせを受けました。

鉄之助の最期

鉄之助は、2年ほど佐藤家に滞在し、その後実家に帰り、辰之助と再会しています。

鉄之助の最期には2通りの説があります。

  • 明治6年(1873年) 大垣で病死
  • 明治10年(1877年) 西南戦争に参戦し、田原坂で戦死

大垣には、辰之助とともに鉄之助のお墓がありますので、おそらく病死したというのが真実ではないかと言われています。

ですが、新選組の生き残りの島田魁の言い伝えによると、西南戦争で西郷隆盛側について、戦死したとあるそうです。

西郷隆盛終焉の地

旧幕府軍で生き残った武士の多くは、西南戦争で新政府側につき、薩摩を倒そうとしたのですが、なぜ鉄之助は西郷側だったのでしょうか。

これには、こんな説が残っています。

鉄之助は、西郷隆盛の命を狙い、薩摩に潜入していたところを、西郷の側近・桐野利秋に見つかってしまった。

しかし鉄之助は、桐野の人柄に惚れこみ、西南戦争まで付き従った。

土方歳三の側近だった鉄之助なら、こんな死に方の方がふさわしいのかもしれませんが、ちょっとできすぎたお話ですね。

どちらにしても、あまりにも若くして亡くなってしまったことには変わりありません。

新選組副長に出会い、短くも燃え尽きた生涯だったのです。

土方と鉄之助

土方は、鉄之助についてこんな言葉を残しています。

「頗る(すこぶる)勝気、性亦怜悧」

(とても負けず嫌いだが、冷静沈着な性格でもある)

鬼の副長として、多くの隊士から恐れられていた土方でしたが、小姓としてすぐそばにいた鉄之助のことは、可愛がっていたようです。

そんな土方を敬愛し、土方に憧れていた鉄之助。

それだけに、最期まで土方の傍にいたかったことでしょう。

でも土方は、鉄之助を救いたかったのです。

実は、鉄之助が入隊したと同時期にはほかにも年少の隊士が入隊していました。

田村銀之助・玉置良蔵・上田馬之丞らです。

土方にとっては、みんな20歳近く年下の、子供のような存在です。

図らずも新選組隊士となった彼らでしたが、土方はなんとか彼らの命を助けたかったのです。

しかし、明治2年の4月ごろには、上田馬之丞は戦死してしまいます。

玉置良蔵は、労咳(結核)にかかっていたらしく、函館で病死しています。

田村銀之助は、土方の計らいにより、榎本武揚付になったことで、命を失う危険が少なくなりました。

函館政府総裁の榎本武揚は、土方戦死後、新政府軍に降伏し、命が助かっています

残ったのは鉄之助。

自らの死を覚悟している土方は、鉄之助を道連れにすることだけは避けたかったでしょう。

勝ち気ででも冷静な鉄之助を救う手段として、土方は、自分の遺品を届けさせることを思いついたのです。

函館の陣を出てゆく鉄之助の後姿を見ながら、土方は、自分には見ることのできない鉄之助の未来を思っていたのかもしれません。

市村鉄之助が登場する作品

まだ幼い鉄之助が、最後まで新選組隊士として、土方歳三に従ったことで、その生き方に惹かれる方が多かったのでしょう。

新選組隊士としては短い期間だったにもかかわらず、鉄之助を描いた作品は多いです。

特にコミックでは、史料の少ない鉄之助が自由に暴れまわっています。

いつものように最後はおすすめの作品を紹介しましょう。

新撰組異聞 PEACE MAKER    黒乃奈々絵

市村鉄之助が、長州藩士に殺された両親の敵を討つために、兄・辰之助とともに新選組に入隊し、土方の小姓となります。

周囲との関わりの中で、成長していく鉄之助はもちろん見どころですが、沖田総司のキャラがすごいです。普段はとっても優しくて女性のような雰囲気も持っている沖田ですが、ひとたび剣を抜くととんでもなく恐ろしい…。

史実とは離れたストーリーですが、とにかくおもろいです。

アニメ・映画化・実写化もされています。

銀魂 バラガキ編 第42巻   空知英秋

『銀魂』の主人公は、坂田銀時ですが、新選組をモデルにした真選組が登場します。

”バラガキ”とは、実際に土方が少年の頃に呼ばれていたあだ名で「触るといばらのように怪我をさせられるような乱暴な少年・向こう見ずな少年」という意味です。

バラガキ編では、市村鉄之助がモデルになった佐々木鉄之助が登場していて、次第に土方を敬愛していく鉄之助の姿が描かれています。

もちろん、史実とは全く違いますが、個人的にはすごく好きな作品です。

アニメ『銀魂』バラガキ編 244~247話

一刀斎夢録   浅田次郎

新選組の生き残りである斎藤一が、昔語りをする物語です。

市村鉄之助との出会いは、斎藤が、新選組の同志・吉村貫一郎京都の町を歩いているときでした。

橋の下でうずくまる2人の少年。

市村辰之助・鉄之助兄弟でした。

斎藤は、2人を新選組屯所に連れ帰り、ここから斎藤と鉄之助の妙な縁が始まることになります。

戊辰戦争後の鉄之助の消息にも触れていて、とても興味深い本です。

『壬生儀史伝』『輪違屋糸里』に続く浅田次郎さんの新選組3部作の完結編となっています。

新選組ござる   高橋由太

鉄之助の家業は、インチキくさい祈祷師・拝み屋で、しかも先祖は「ぬらりひょん」という妖怪!

幼い時に両親が亡くなり、村の人たちから馬鹿にされた悔しさから、武士になりたいと新選組に入隊します。

鉄之助を追ってきた飼い犬のモモまでなぜが新選組に入隊。

鉄之助には、他人には見えないけど九郎判官・源義経の幽霊がずっと付きまとっています。

鉄之助が、新選組隊士として奮闘していく中で、不可思議な事件に巻き込まれてゆくオカルトファンタジーです。

市村鉄之助が新選組に入隊したというところだけが史実に基づいていて、それ以外はほぼオリジナルです。

でもおなじみの新選組隊士が登場しますので、面白く読めると思います。

続編に『新選組はやる』『新選組おじゃる』があります。

土方歳三最期の一日

2004年の大河ドラマ『新撰組!!』の続編として2006年の正月の放映されたドラマです。

新政府軍の函館総攻撃前夜を中心として、土方歳三の生きざま、死に様を描いた作品です。

山本耕史さん演じる土方のビジュアルが、本物そっくりで、大河ドラマに続き、人気のドラマとなっています。

市村鉄之助は池松壮亮さんが演じていますが、少し少年の雰囲気を残した池松さんと鉄之助が見事にリンクして、とてもよかったです。

こんな風に書いていると、久しぶりに見たくなってしまいました。

 終わりに

今回は、新選組の少年隊士・市村鉄之助についてお話ししました。

岡田准一さん主演、2021年10月公開の『燃えよ剣』では、SixTONESの森本慎太郎さんが市村鉄之助を演じていらっしゃいます。

 

2021年9月現在

コロナウイルス蔓延のため、1年延びた『燃えよ剣』は、首を長~くして待ち続けた映画です。

いったいどんな土方が、そしてどんな鉄之助が見られるのか、楽しみです!

 


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