『木かげの家の小人たち』は日本の児童文学作家いぬいとみこさんの書かれた物語です。
児童文学という分類に入りますが、子供たちよりむしろ大人の方ににお勧めの本だと思っています。
題名の通り、可愛い小人たちが出てきて、うきうきとする気持ちもありますが、それ以上に考えさせられる内容が多い本です。
私が初めてこの本を読んだのは、中学生くらいでしたが、その時のワクワクと切なさが混ざった感覚を持ったことを今でも覚えています。
すっかりおばちゃんになってから改めて読んでみると、そのころのワクワク感とともに新たな感覚を感じました。
これは、大人にこそ読んでほしい本だ!と思い、今回紹介することにしました。
前置きはこのくらいにして、『木かげの家の小人たち』についてお話しますね。
『木かげの家の小人たち』のあらすじ
物語は、森山家(達夫・透子・哲・信・ゆり)、アッシュ家の小人たち(バルボー・ファーン・アイリス・ロビン)を中心に進みます。
東京のとある町のとある家。
森山家の主人森山達夫が小学生の時、イギリスのマクラクラン先生に小人のアッシュ家のお世話を頼まれます。
物語はアッシュ家のお世話を達夫からその家族に引き継がれ、娘ゆりが担当している日々が中心になっています。
ゆりは、やっと自分ができるようになったアッシュ家のお世話を毎日楽しく頑張っていました。
ですが、迫りくる戦争の影にたったいっぱいのミルクをあげることも難しくなってきます。
ゆりのすぐ上の兄信は、外国人の小人をいまだにお世話することに反感を持つようになり、父達夫は、外国の本をたくさん所蔵していたという理由で逮捕されます。
食料が少なくなり、次第に戦争が激しくなると、ゆりは信州の親せきの家へ疎開します。
アッシュ家の人々もともに疎開しますが、ゆり一人の力では、毎日のミルクを確保することは次第に難しくなり…。
物語のみどころ
私が一番心魅かれたのは、もちろん小人たちの暮らしです。
小さなキッチンやベッド、豆本を体いっぱいでめくる男の子ロビンなど、想像するだけでうきうきしてしまいます。
人間の持ってくるミルクだけが生きながらえる糧というアッシュ家の小人たちは、あまりにもか弱くて、どんなことがあっても守ってあげなくてはという気持ちになります。
佐藤さとるさんの”コロボックル”のような力強い生命力は感じられない小人たちですが、その繊細さはとても魅力的でもあります。
でも、戦争の影が濃くなるにつれ、悲しい出来事が次々と起こってきます。
ゆりの切ない気持ちやそんな中でのゆりの成長、アッシュ家の子供たちの成長ぶりなどは戦争の暗い雰囲気を少しだけ明るくさせてくれます。
戦争が引き起こす人間同士の関係破綻、自分の意見も自由に言えなくなる戦時下の日本。
ちっぽけな女の子ゆりや小人たちの力ではどうにもならない世の中の流れが歯がゆく感じます。
温かい人々ももちろんいます。
アッシュ家の人たちにも、鳩の弥平や信州で出会うアマノジャキ(小人の仲間かも?)など、心強い仲間が増えていきます。
大人になってから読むと、戦争の悲惨さや矛盾をより一層感じる本。
ただの小人物語・ファンタジーではなく、戦争・自由について改めて考えさせられる本です。
ちなみに、続編の『くらやみの谷の小人たち』では、アッシュ家の子供たちアイリスとロビンが中心となってお話が進みます。
こちらは、ちょっと冒険物っぽくてまた違った面白さがあります。
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