ゴールデンウイークの喧騒も一息ついた5月の心地よい晴れの日。
新緑が美しい鷹峯エリアへ行ってきました。
紅葉シーズンは、結構人出が多い鷹峯エリアですが、この季節は案外穴場になっています。
ゆったりと心行くまで楽しめた、そんな鷹峯散策。
青もみじと清々しい景色をお楽しみください。
悟りの窓と迷いの窓 源光庵
今回私は、最も気になっていた源光庵から参拝しました。
悟りの窓・迷いの窓はもちろんですが、関ケ原の戦い前哨戦であった伏見城での戦い、その遺構である血天井も確認したかったのです。
源光庵について
源光庵は、貞和2年(1346年)に臨済宗大徳寺2代目・徹翁国師により開創され、元禄7年(1694年)に卍山道白禅師によって、曹洞宗に改宗された寺院です。
正式名は、鷹峯山寶樹林源光庵といいます。
ご本尊は、釈迦如来。
本堂の西には、霊芝観世音菩薩がお祀りされています。
総門から山門へ
源光庵は、「鷹峯源光庵前」バス停から西へ歩いて、1~2分の所にあります。
すでに総門からの景色が美しく、まず堪能。
総門をくぐるとすぐ左に折れ、また右に。
丸い窓が配置された、ちょっと特徴的なデザインの山門が見えてきます。
山門には「復古禅林」と書かれた扁額(看板)が掲げられているのですが、これは、卍山道白禅師が42年にも及ぶ歳月を費やして、曹洞宗の寺院として源光庵を復古させたことに由来しています。
本堂へ
山門をくぐって正面に見えるのが、本堂です。
右手の書院に上り口、受付がありますので、そこから入りましょう。
多くの方が「悟りの窓・迷いの窓」を目的で来られているのでしょうか。
受付のお姉さんが「血天井もご覧になってくださいね」とおっしゃっていました。
私はそれが見たいのですよ!(心の声)
書院のお部屋も拝見しながら、いよいよ本堂へ。
まずはご本尊にご挨拶、そして…。
悟りの窓・迷いの窓
悟りの窓と迷いの窓は、本堂に向かって左にあります。
丸い窓が悟りの窓で、四角い窓が迷いの窓
迷いの窓は、「人間の生涯」を象徴したもので、「四苦八苦」を表しています。
四苦八苦とは
- 四苦:生老病死…生きる苦しみ、老いる苦しみ、病になる苦しみ、死という苦しみ(人が生まれ、生き、死んでいく中で誰もが必ず出会う苦しみ)
- 怨憎会苦(おんぞうえく)…怨み、憎しみ合う者同士が会う苦しみ
- 愛別離苦(あいべつりく)…愛する者と別れるという苦しみ
- 求不得苦(ぐふとっく)…求めるものを得られない苦しみ
- 五陰盛苦(ごうんじょうく)…自分の心身を上手くコントロールできない苦しみ
そして、悟りの窓は、「禅と円通」を表していて、ありのままの自然な姿、偏見のないおおらかな姿を教えているとされています。
難しいことは抜きにして、
迷いの窓を見て、これまでの自分自身の生きてきた道を振り返り、反省し、
悟りの窓を見て自分のこれからを見直す、ありのままの姿を受け入れることで、新しい明日に向かえる
そんな気持ちでご覧になってみてください。
ちなみにこちらは、紅葉時期の悟りの窓・迷いの窓です。
激戦の跡が残る血天井
本堂の一番奥には、伏見城で戦死した鳥居元忠らの菩提を弔うためのご位牌が置かれています。
そして上を見上げると、黒ずんだシミがあちこちに。
なんだか写真を撮ることが出来ず…。
源光庵で血天井おがんできたよ pic.twitter.com/tKx1og7SAt
— うみ (@umi______sea) November 29, 2018
これは慶長5年(1600年)の関ヶ原の戦い前に伏見城で散った徳川家臣たちの流した血の跡です。
この時、家康は上杉討伐のために、大坂から西へ向かっていました。
実はこれは、石田三成が家康を倒すために、戦を仕掛けるように仕向けるための家康の作戦だったのです。
家康が図った通り、三成は守りが薄くなった伏見城を攻めます。
決死の覚悟で三成軍に立ち向かう鳥居元忠ら徳川勢。
元忠率いる徳川軍は2000名足らず。
それに対し、三成軍は4万とも言われています。
そんな中で、元忠らはなんと13日間も戦い抜き、伏見城を守ったのです。
しかし、最後は力尽きた徳川勢。
彼らの壮絶な戦いを見たであろう伏見城の廊下は、血まみれでした。
徳川の世となり、伏見城の廊下は、鳥居元忠たち家臣の忠義を称えるため、そして彼らの菩提を弔うために、京都市内や近郊の寺院の天井として用いられました。
それが、源光庵の血天井なのです。
今でも彼らの戦いの声が聞こえるような、生々しい跡。
くっきりと残された足跡を見て、思わず手を合わせてしまいました。
緑がきらめく光悦寺
ちょっと切ない気持ちが残りつつ、次の場所へ移動しましょう。
源光庵から西へ歩くこと約2分。
光悦寺は、静かにたたずんでいました。
光悦寺について
江戸初期の芸術家兼プロデューサーだった本阿弥光悦は、徳川家康にこの鷹峯の地を拝領されました。
光悦は、一族郎党とともに弟子や芸術家、工芸職人らを移住させて一大芸術村を作りました。
それがいわゆる鷹峯芸術村です。
光悦寺は、光悦の死後にその邸宅跡を整備して開かれた日蓮宗の寺院です。
境内には、大虚庵・三巴亭・了寂庵・徳友庵・本阿弥庵・騎牛庵・自得庵と言う7つの茶室があります。
参道から本堂へ
参道は、緑の木漏れ日がキラキラときらめく絶景です。
まさに息をのむ光景に「きれい~」の連続でした。
残念ながら参道は、撮影禁止になっていましたので、フリー画像で紹介しておきます。
受付の向かいには、本堂があり、本阿弥光悦の木像やご本尊である十界曼荼羅がお祀りされています。
光悦さんとご本尊にご挨拶をして、お庭の方へ行きましょう。
風情ある光悦垣
大虚庵前にある光悦垣は、青もみじとのコントラストも美しく、なだらかな曲線が何となくほっこりした気分にしてくれます。
訪れる方はあまり多くなく、ゆっくりと散策ができました。
何より、緑の癒し力が半端ない。
マスクを外して深呼吸、「気持ちいい!」
境内の最南端まで行くと鷹峯や鷲ヶ峰が一望できる休憩所がありました。
新緑が鮮やかな山々を借景とした光悦寺の境内が壮大です。
遠くには京都市街も一望できる、最高の場所でした。
吉野太夫ゆかりの常照寺
最後は、常照寺です。
光悦寺から東へ、源光庵を通り過ぎ、約5分。
見えてきました、あの朱塗りの門が。
と、その前に。
常照寺について
常照寺は、法華経を篤くを信仰していた光悦と子の光瑳が日乾上人に寄付した地に開かれました。
その後日乾上人は、常称寺内に僧侶の学問所・鷹峯壇林も作っています。
吉野門
常照寺といえば、吉野太夫が寄進した朱塗りの吉野の赤門です。
青もみじに朱色が美しく映えています。
吉野門をくぐると正面に本堂です。
残念ながらこの日は、法要が行われていたため、本堂の方はゆっくり見ることが出来ず。
とりあえず境内を散策することに。
吉野窓
本堂に向かって左奥へ行くと、吉野太夫ゆかりの遺芳庵と言う茶室があります。
この茶室にあるのが、「吉野窓」です。
大きな丸い窓で、青もみじの緑がアクセントになっていてきれいでした。
実はこの丸窓、真ん丸ではなく、下の部分は直線になっているのです。
あえて不完全な形にして、吉野太夫は、まだまだ精進が必要な自分自身と重ね合わせていたと言われています。
吉野太夫と常照寺
島原という花街の名妓であった2代目吉野太夫は、法華経を篤く信仰していた人で、日乾上人に帰依し、この後で紹介する山門を寄進しています。
吉野太夫は、京の豪商で本阿弥家の一族でもある灰屋紹益と結婚しますが、わずか38歳で亡くなりました。
常照寺の境内には、吉野太夫のお墓や灰屋紹益の供養塔もあります。
二代目吉野太夫墓 鷹峯常照寺境内 吉野太夫は京都島原の名妓。才色兼備にして遠く明国にも知られていた。のち豪商灰屋紹益に身請けされるが38歳の若さで没す。開山日乾上人との縁に当地に葬られる。#京都 #kyoto #吉野太夫 #灰屋 #鷹峯 #島原 #遊郭 pic.twitter.com/FCxIWUfGan
— 京都_寺社_仏閣_kyoto_temple_shrine 松田貴史 (@CafeTemple) May 21, 2020
鬼子母神と白馬観音
本堂から左手へ向かうと鬼子母神がお祀りされているお堂が、そして小さな門を発見。
そっと覗くと下に向かって階段が続いています。
説明書きには、昔々、白馬に乗って北山と池を往来していた仙人をお祀りした白馬観音があると書かれていました。
ちょっと怖そうな雰囲気もありますが、勇気を出して降りてみましょう。
結構長い階段を降り切った先には、小さな白馬池があり、確かに白馬に乗った仙人様がいらっしゃいます!
なんだか不思議な光景。
誰もいない秘密の場所に迷い込んだような錯覚に陥りました。
でも
「この池に落とし物をしたら、うれしい倍返しとかありそう」
とか煩悩だらけの考えが浮かんでしまう凡人…です。
基本情報まとめ
各寺院の拝観案内をまとめて紹介しておきます。
源光庵
・拝観時間
9:00~17:00 法要などにより臨時で拝観中止されることがあります
・拝観料
大人 400円(11月は500円)
小学生 200円
源光庵公式サイト https://genkouan.or.jp/
光悦寺
・拝観時間
8:00~17:00 (紅葉時期は8:30~17:00)
・拝観料
大人 400円 (紅葉時期は500円)
常照寺
・拝観時間
8:30~17:00
・拝観料 (本堂)
大人400円 小学生 200円
鷹峯へのアクセス
鷹峯へ最もおすすめのアクセス方法は、市営地下鉄「北大路」駅から市バス北1系統に乗る方法です。
京都駅からもバスは出ているのですが、最近の京都駅バス停は、混雑ぶりが半端ないので、地下鉄も併用した方がおすすめです。
北大路駅には、全天候型の利用しやすい北大路バスターミナルがあり、そこから「鷹峯源光庵前」バス停までは、約15分。
ちなみに鷹峯の寺院には、駐車場もあり、車利用も問題ありません。
ただし、紅葉シーズンは、すぐに満車になってしまいますので、ご注意を。
なお、鷹峯エリアの道路はとっても狭く、その上市バスが通っているので、すれ違う時にスリル感が楽しめて(?)しまいます。
終わりに
実は、大学での卒論は、本阿弥光悦がテーマでした。(内容はすっかり忘れましたがww)
多分そのころに一度光悦寺には来ているのですが、記憶もすっかり薄れ、また趣や風情などそのころの私にわかるはずもなく。
ほとんどはじめましての状態で拝観してきました。
この数十年でいろいろな疲れがたまっているのか、はたまたただ単に年を取ったせいなのか、しっとりしたたたずまいの寺院が、美しい緑が凝り固まった心をほどいてくれるのを実感します。
時間の流れもゆったりとしていて、別次元にいるようでした。
京都には、こんな素敵な空間と時間を楽しませてくれる場所が、本当にたくさんありますが、再びのインバウンドで、騒がしくなりつつあります。
人出が多すぎるのはあまりうれしくありませんが、これからも穴場を探しつつ、京都の素敵を堪能していきたいと思います。
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