日常のちょっとした心の触れ合いやぬくもり、その人の奥にある思いを描き、日々のストレスに乾いた心を潤してくれる、いつもそんな世界を見せてくれる青山美智子さんは、私の好きな作家さんの1人です。
今回は、ちょっと変わった神様と、理想と現実のはざまで悩みながらでも毎日を平凡に生きている人たちとのお話。
『ただいま神様当番』のあらすじ
ある朝目を覚ますと、腕に大きく「神様当番」という文字が!
突然現れた神様のお願いを叶えないと、その文字は消えないようで…。
幸せの順番待ちに疲れたOL,弟にうんざりしている小学生の女の子、リア充と思われたい男子高校生、乱れた日本語に悩まされる外国人教師、部下が気に入らないワンマン社長。
『ただいま神様当番』裏表紙より
私たちのすぐ近くにいるような、普通の人生を送っているようでいて、それぞれに悩みを持っている5人の登場人物が、神様と出会ったことで少しずつ変わっていく…。
ファンタジーでありながら、等身大の人生を見守っているような素敵な物語です。
神様の願い事を叶えない限り、「神様当番」という文字は消えないという設定が、なんとも面白い。
腕に黒々と書かれているから目立ってしようがない。
だからみんな消してもらうために必死で神様の願い事をかなえようとするのですが、神様はそんな簡単に納得してくれません。
小さなおじいさんの姿で登場する神様は、とても自由奔放。

時には主人公を思いのままに操ったり、可愛くお願いしたり、いかにも神様的な言動をとったりするので、つきまとわれている(?)本人はすごく大変そう。
でも神様の願いをかなえるために頑張っているうちに、自分の不満や悩み事は、ただの思い込みや相手の気持ちが理解できなかっただけだと気付きます。
大切なことは目の前にあって、ほんの少し見方を変えるだけで、毎日が違って見えてくるのです。
自分自身が変わっていくことで、ずっと気になっていた、不満を持っていたはずのことが変化し、気づくと主人公たちを取り巻く負のオーラのようなものが消えたように感じました。

心に残った言葉たち
私を楽しませるのは私。
順番なんて、もう待たない。
自分から世界に参加していこう。腕を伸ばして、この手でしっかりとつかんで。
p68
何をしても上手くいかない、引っ込み思案で仕事場でも居場所がないと思っていたOLの咲良。
でも神様に翻弄されるうち、見方・考え方が変わり、毎日を自分で楽しもうとする姿は、当たり前ですが「良かったね」「私もそうしよう」と思わせてくれました。
特に私が共感したのは最後に登場するワンマン社長。
零細企業ながら、自分で立ち上げここまで築き上げてきた電気工事の会社の社長として自負もプライドも持っている福永さん。
これからは汗を流し、作業服を汚しながら働くのではなく、スーツを着て高いところからの景色を見るんだと、会社を大きくすることを夢に見ていました。
でも部下の裏切りに遭い、それどころではなくなる。
神様当番として神様に振り回され、イライラしていたはずが、次第に気付き始めました。
人から見たら、簡単なことかもしれない。でも俺にはできなかった。卑屈さやケチ臭さ、ゆがんだ自尊心が邪魔していた。
p305
超零細ではあるものの私も自営業者の端くれであるだけに、福永さんの言動に若干の共感を持ったり、「それはあかんで」と思ったりしながら…。
どうして気がつかなかったのだろう。
俺はとっくの昔からすでに、こんなにも美しい「高いところからの景色」を見ていたのだ。
p310
今まで見えていなかった幸せや未来を垣間見たように思いました。
自分の思い描いていた人生とは違っているかもしれないけれど、毎日のほんの少しの勇気や心がけで変わることはたくさんあるんだ、それって意外と大切なのかもと勇気づけられます。
連作の短編で、読み進めるうちにそれぞれの章の主人公がつながって、でもそれぞれにしっかりと生きている姿がうれしく、ほほえましくなりました。
青山さんらしいほっこりと優しい世界に浸らせてくれる癒しの、ほのぼの系自己啓発本です。



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