あなたは、百夜通い(ももよがよい)の伝説をごぞんじですか?
学校の授業で習うようなことではないため、なんとなく知っている程度のお話でしたが、ゆかりの地が結構近くにあることを知り、改めて調べてみました。
その結果…
小野小町の哀しさ、愛しさを感じています。
小野小町と深草少将、百夜通いの伝説とは?
平安時代の恋愛は、今の恋愛とは全く違います。
文や歌のやり取りをする中で、愛をはぐくみ、お互いの心が合えば、男性が女性の元へ通います。
出会い(文を送る)のきっかけは、人のうわさや誰かから聞いた話など。
なんとあやふやな恋の始まりでしょうか。
でもそれが、平安時代の普通だったのです。
源氏物語でも光源氏が噂だけで恋い焦がれた女性にやっとの思いで逢うと
「!!思ってたのと違う!」
なんて描写があります。
百夜通いの伝説
黒髪がつややかで美しく、文才にたけた小野小町は、世の多くの男性の心をとらえ、あちこちから恋文を受け取っていました。
深草少将もそんな小町に恋した一人の男性だったのです。
でも、小町にとっては言い寄ってくる多くの男性の一人にしか思っていなかったのでしょう。
小町は、度々文を送り恋の成就を願う深草少将にこんなふうに言います。
「それほど私を想ってくださるなら、その証拠に百日の間、毎夜私の元へ通ってください。もし百夜通い続けてくださったら、私はあなたの心に応えます」
深草少将は、小町の言葉を信じ、毎夜小町のところへ通い続けます。
小町は、京都山科の随心院に住んでいました。
その距離およそ6㎞。
京都駅から五条の清水寺までがおよそ5.3㎞で、徒歩なら50分くらいかかります。
それ以上の道のりを、毎夜通い続けるのは、並大抵の恋心では無理ですね。
深草少将は、苦行のような通い道をひたすら続け99日、
あと一夜というところで、小町の元へ通う途中で雪と病により倒れてしまいます。
深草少将の想いにいつしか小町も、深草少将を想うようになり、百夜目を心待ちにしていたのですが、叶うことなく、2人は永遠に別れてしまったのです。
百日目の夜、小町はどんな思いで深草少将を待っていたのでしょうか。
深草少将が、力尽きて倒れたと知ったとき、小町は後悔したのでしょうか。
「私の身勝手な言葉を真剣に受け取ってくださった貴方様は、
もう二度と私の元へはいらっしゃらないのですね。
こんなにも貴方様を想っている小町は、これからどうすれば良いのでしょう…・」
はじめはの頃は、少し煩わしく思っていた小町ですが、深草少将が通ってくるたびに届けてくれた榧(かや)の実を、一粒ずつ綴り、思いを遂げられる日を心待ちするようになっていました。
百夜通いはどんなふうに終わる?
百夜通いの最後は、いくつかの伝説が残っています。
1. 深草少将が99個の榧の実を握りしめたまま亡くなったため、小町はその実を小野の里に撒いた
2. 深草少将は、100日目の夜に大雪のために小町の元を訪れる途中に凍死した
3. 深草少将が小町の元へ毎夜持ってきたのは芍薬の花で、100日目の夜は、雨が降り続き、100本目の芍薬を持った深草少将は、小町のところへ行く途中に橋ごと川に流されてしまう。
小町は、船を出して深草少将の遺体を探し出して、供養をしながら暮らす
4. 深草少将の死後、小町は深草少将の怨霊に取りつかれて錯乱し、乞食の老女になった
行動的な小町や恐ろしい深草少将など、バラエティー豊かですね。
小野小町の晩年から最期については、様々な伝説や作品があります。
私が特に心打たれた作品に「陰陽師ー飛天の巻」に掲載されている「鬼小町」という話があります。
深草少将の怨霊が小町の死後も強い思念で小町をこの世に縛り付けているために、小町はいつまでも成仏できないでいます。
小町と深草少将の霊は一匹の鬼となって恨み合いながら桜吹雪の中で狂ったように舞い続けます。
安倍晴明が「救えぬのだ」というほどの強い想いを持った深草少将と、それに苛まれる小野小町の哀しい話です。
人の心の恐ろしさをつくづく考えさせられる作品です。
『陰陽師 飛天ノ巻』読了。
人気シリーズの二作目。今回も古典を題材にしたストーリーで、複雑な女心と移り気な人の本心を歌と共に描いている「露と答へて」や、深草の少将と小野小町が登場する「鬼小町」が印象的。博雅の純朴さが際立つ内容だった。次巻も期待。 pic.twitter.com/gO6NcKKsEp— びちこ@読書 (@b15bbb) 2017年9月11日
深草少将の邸宅跡 欣浄寺を訪ねる
深草少将はどんな思いで、毎夜小野小町の元へ通っていたのでしょうか。
その思いを少しでも感じるために、欣浄寺へ行ってみました。
京阪墨染駅から西へ。
疎水にかかる橋を渡って、信号を左に曲がると『欣浄寺』と書かれた看板(?)が見えます。
石砂利の駐車場スペースの奥に現代的なお堂がありました。
私が入ったのは、お堂の裏のほうでしたので、左奥の階段を上がってお堂正面に行きます。
実は、右側にも石畳風の階段があり、初めそちらのほうに入ったのですが、そこは普通のおうち、おそらくご住職のご自宅だったようです。
趣のある石段だったのでてっきりお寺の入り口だと思ってしまいました。
あなたは気を付けてくださいね。
(入り口は、東側の狭い道に面したほうにもありますよ)
欣浄寺は、曹洞宗の道元が建立したお寺と言われています。
御本尊は伏見大仏と呼ばれる毘盧遮那仏です。
本堂の向かいにあるのが、深草少将百夜通いの道です。
その奥には小町姿見の池、深草少将姿見の井戸、
池を渡った正面には、小野小町と深草少将の供養塔が並んでいます。
〈正面奥に供養塔があります〉
青もみじが池に映え、忙しい日々をふと忘れるような静かで不思議な空間が、ひっそりとたたずんでいました。
観光地として有名な場所ではありませんので、人も少なく、物思いにふけるにはぴったりかもしれません。
ストレスで心が疲れてきたら、欣浄寺で百夜通いの伝説に思いを馳せながら、ゆっくりと流れる時間に身をゆだねるのもいいですよ。
欣浄寺へのアクセス:京阪電車墨染駅徒歩5分
市営地下鉄竹田駅から市バス南8番で墨染下町下車
近鉄伏見駅徒歩15分
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